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しかし寄生生物が、どうやって人間になろうというのか。星姫が口車に乗せたのか。それとも、OMEの資金と技術が一枚かんでいるのだろうか……後者の可能性は充分に考えられる。が、技術といったって、OMEはIT企業であって、バイオテクノロジーに手を出した話など、少なくともぼくは聞かない。
それに第一、広大な大陸からわたってきた三姉妹が、こんな狭い商店街で勢ぞろいするなんて、そんな偶然があるだろうか。最初から一緒にいた上の二姉妹はわかるとしても。
「それは、わたしたちが本当は一つだからですよ」
疑問を口にしたところ、何やら哲学的な答えが返ってきた。
(だからこそ、おまえたちは、いつでも一つなのだ。わかるかな?)
彼女たちの生みの親。例の老人の言葉として、たしか夏野も憑かれた時にそう口走った。即物的に解釈すれば、ある種の強力な磁場を共有しているということだろう。例えまた別れ別れになって、何千キロ、何万キロと離れた後も、三姉妹は同じ場所を目指すのだろう。
いずれにせよ、「微」が星姫に何らかのかたちで取り込まれている以上、姉二人を連れて行ったほうが得策だろう。「希」はともかく、イコは案外役に立ちそうだし。
「ところでご主人、そろそろめしの時間ですねえ」
「うむ。腹が減ったぞ。なんとかしてくれ」
まったく、人が思案しているときに。しかも偉そうな口が一つ増えて、うるささも二倍以上だ。さいわい、炊飯器の飯が炊けていたので、即席で例のねこまんまを姉妹に振る舞い、ぼくも軽く一杯、茶漬けをかき込んだ。ぼくなりに、戦へ向かう武将の心境を噛みしめていると、突然どんぶりから「希」が顔を上げ、盛大に飯粒を飛ばした。
「貴様っ……!」
「文句を言うな。急いでるんだ」
「ただの腰抜けと思っていたが、こんなうまいめしが作れたとは。なるほど、姉さんが見込んだだけのことはあるな」
突っ込むのも面倒なので、黙殺して食器を流し台に放り込み、上着を引っかけた。姉妹を再びバスケットに詰め、リンゴで満たしたリュックを背負って部屋を出た。
とにかく美由紀に言われたとおり、ユクトを引きずり出して「黒猫館」へ連れて行くしかあるまい。なぜそうする必要があるのか。そもそも、どうして荻原慎一郎が「黒猫館」にあらわれたのか。さっぱりわからないけれど……ユクトの部屋の前に立つと、いつのまにか貼り紙がしてあった。
「横街センセイへ、フォルスタッフにいます」
先生の文字まで片仮名にしなくてもよさそうなものだが、とりあえずドアに体当たりする手間は省けた。店まで降りてみると、表は閉まったままだが、勝手口が開いている様子。淹れたてのコーヒーの香りに誘われるまま、フロアの方に出てみると、ダウンライトがともされ、カウンターに一人の若い男が腰かけていた。
灰色のロングコートにサングラス。カップを口に運ぶ姿も、映像としてあまりにも様になっているので、どこの俳優かと思えば、ユクトである。
「なんだ、出かけていたのか」
道理で、呼べど叩けど出て来なかったわけだ。なぜ携帯の電源を切っていたのか尋ねると、うっかりしていたという。ハードボイルドな恰好に似合わぬ、間の抜けた答え。
「さっき美由紀ちゃんからのメールを開いて、おおよその事情は確認しました。センセイ」
「うん?」
「サントスを一杯、いかがですか」
急かそうかとも考えたが、あえて逆らわず隣に座った。目の前には、すでに新しいカップが用意されており、ユクトは座ったまま、ポットからコーヒーを注いだ。ぼくが一口飲むのを待って、つぶやくように言う。
「今日はO川公園まで行って来たんです。幼い頃、いつも遊んだ場所でした。でも、大規模な改修工事が行われたらしく、ずいぶん様変わりしていましたね。もちろん、お城も消滅していました」
「お城?」
「ええ。廃材を利用した、小さな子供がのぼって遊ぶための。見た目がオンボロだったせいか、じつは子供たちには不人気で。いつ来ても一人ものぼっていません。でも、ぼくはすごく気に入っていて、そこでばかり遊んでいました。文字どおり、ぼくの城だったのです」
他愛もない思い出話の中に、ぼくはユクトの言い知れぬ孤独を垣間見た気がした。父親に捨てられた少年の……かれは言葉を継いだ。
「そのお城で、ぼくはユキノと初めて出会いました」
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